■終点:松瀬川(ませがわ) 路線図(この最も北です)
「これ、珍しいでしょ。バスがここまで延びてきたとき、家主さんが会社に『ぜひ軒先を使ってください』と言うてくれたそうですよ。」
平日の昼下がり。運転士さんと二人きり、田舎道にエンジンを唸らせながら走ってきた伊予鉄バスが、民家の前で停まりました。
ここは道後平野の東奥にある奥松瀬川集落。道前と道後を隔てる稔山のふもとに15世帯あまりが暮らす静かな山村です。
面白いのは終点の停留所で、なんと集落奥にある民家の軒先に乗り場があるのです。
昔ながらの木製プレートの横には、赤い郵便受け。ここまで地域に溶け込んでいる終点は滅多にないでしょう。
松瀬川までバスが通じたのは、川内管内各線では最も遅い昭和40年の話で、沿線集落からの要望によって開設されたそう。
モータリゼーション前夜のこの時代、横河原の駅まで8キロもある集落のことです。当時、バスがどれほど歓迎されたことか、想像に難くありません。
とはいえ、開設からもう半世紀。時代はすっかり移ろいました。
「バスが出来たとき?思いもつかんねえ。見ての通り今では殆ど乗らないですよ。たまにおばあちゃんが使うくらいですね。」
長らくローカルバスは冬の時代。この路線とて、市の補助金でなんとか維持されているのです。
古き良き頃を知るであろう鄙びたバス停に見送られて、空っぽのバスは少し寂しげに集落を離れていきました。
■路線概要
松瀬川と川内バスターミナル間は土曜平日のみ4往復のダイヤで、うち一部は横河原駅や見奈良駅、東温市役所まで足をのばします。
東温市内の山間集落を結ぶ「川内管内線」のひとつです。
(24年8月訪問)
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