バスは、おおよそ伊豆のイメージとはかけ離れた、鬱蒼と茂る杉林を抜けていきます。
その先に、夕日に照らされた天神原の集落がありました。
伊豆半島の南端に位置する南伊豆町は、石廊崎灯台に代表されるように、海沿いのイメージが強い町です。
しかしながら、意外にも町域は広く、山間集落も多く抱えています。
それら集落を結びつつ走るのが、この下加茂~天神原線で、1日6往復のみのローカル線です。
役場が置かれている下加茂から、青野川に沿って狭隘県道を終点目指して上っていきます。
そして、それら集落らの一番奥にあるのが、高台に開けた天神原なのです。
この奥深い集落を開拓したのは、終戦直後に夢破れて外地から引き揚げてきた人々で、 バス停の横にも戦後開拓村であることを伝える記念碑があります。
なにより、ここでは今でも伊豆方言ではなく、標準語のイントネーションが根付いているそうです。
戦後70余年、今なお天神原には引き揚げの歴史が息づいています。
観光地伊豆にも、こんな「標準語の村」があるのです。