2015年3月1日日曜日

【バス終点】上田バス/傍陽線

■終点:入軽井沢(いりかるいさわ)

 地元のおじいさんに寒いだろうと自宅に招かれ、小一時間の折り返し待ちはあっという間にすぎていきます。

 「この前も『ハーベストホテルはどこですか?』って聞かれたなあ。あるわけない。観光バスが迷い込んできたこともあった。」
 あたたかいお茶を注ぎつつ、なにもないところだよと笑いながら語ってくれました。

 こんな信州の「軽井沢」を目指すのが上田バスの傍陽線。上田駅から松代に続いていく坂道を40分ほど登り続けた先の山村に、積もるばかりの雪で白一色に染まった終点があるのです。


 ご推察の通り、信州にはいくつかの「軽井沢」があります。 そのうち町村制(のち地方自治法)に基づく自治体となったところがふたつあり、ひとつが高名な中山道沿いの避暑地・軽井沢、もうひとつがこちら中山道から別れた松代道沿いの山村・軽井沢です。

 今でこそそれぞれの軽井沢はまったく違う顔を見せています。しかし、昔はどちらにも番所が置かれ、峠を控えた交通の要衝でありました。一説によると「軽井沢」の語源は荷物を背負うことを意味する古語「かるう」にあるといい、これは転じて峠道という意味も持つそうですから、同じ地名になったのも偶然ではないでしょう。

 近代の交通革命がそれぞれの姿を変えていったわけですが、 もしかすると避暑地軽井沢も国鉄信越線で東京と直接結ばれることがなければ、小さな山村の佇まいであったかもしれません。改めて地名の奥深さを感じさせてくれる終点です。


 やっぱり「なにもないところだけど」と前置きをしつつ、こちらの軽井沢では春にホタルが飛び交い、近くの牛乳工場では出来立てのミルクが味わえる、とは先のおじいさんの談。松代との境を成す地蔵峠には天然温泉もあるそうです。

 リゾートホテルこそないかもしれませんが、私はすっかりこの素朴で親切な「軽井沢」のファンになりました。

(2015年2月訪問)


■傍陽線メモ
 上田バス傍陽線は1972年に廃止された鉄道真田傍陽線の代替としての役割を担っている路線で、市北西部にあたる傍陽地区と上田駅を結んでいます。一部便は上田駅に直通せず、途中の真田にて菅平線等との乗り換えを必要としますが、その場合も乗換券により運賃の通算が行われています。
 なお上田バスの前身会社にあたる上電バス時代には、路線名通り傍陽どめの便や、入軽井沢の先にある松井新田行きの便もあったそうです。また鉄道廃止後も長らく旧傍陽駅舎がバス待合所として活用されていましたが、残念ながら2003年に解体されています。