鉄道・バスの回数券が次々と消えている。ICカードが普及してもなお、磁気乗車券として残っていた鉄道各社の回数券であるが、2020年の秋以降、首都圏と近畿圏の大手事業者で発売中止が相次いでいる。
既存の運賃種別の中で、ICカードとの相性が悪いのが回数券である。回数券をICカードに取り込むことは技術的に可能であるが、利用者にも駅員にも利用回数や有効期限が券面に表示されずわかりにくいことや、ほかの乗車券と併用する際の扱いが困難であり、よって今後も残るものだと思っていたので驚いた。
また、バス回数券の廃止と同時に、首都圏各社局に広がったのがバス特の廃止である。こちらは単純な改悪であり、バス共通カード廃止時の代替割引として大々的に宣伝されたことを思うと隔世の感がある。
だが、改めて事業者の立場に立って考えてみると、回数券もバス特も何らメリットはなく、ただ歴史的経緯で行われているサービスであったのだということがわかる。
これらの割引根拠には、多頻度利用者に対する乗車券発券費用を節約することがまず挙げられる。しかしながら、この効果はワンマンバスや磁気乗車券に移行した時点で大きく減少し、ICカード導入でさらに減少している。
そして、企画券などで期待される需要惹起効果も薄い。同一区間の多頻度利用者は、通院や通学といった必要性の高い目的であり、普通運賃利用者と比べて需要の運賃弾力性が高いとは考えられない。
新型コロナウイルス感染拡大が広がって、運賃収入を増やすことが求められているが、東急など一部の例外を除き普通運賃や定期運賃の改定を事業者は躊躇している。というか、せざるを得ない理由がある。認可運賃の改定申請と、国交省による審査基準が一時的な需要減に伴う減収を想定していない。改定を決めた東急も、設備改善を最大の理由に挙げている。
そのため、事業者は増収の当てを、手間のかかる普通運賃の改定ではなく、届出で変更できる回数券や企画券などの割引乗車券の廃止や値上げ、届出の必要がないポイント付与の見直しに求めているのである。
磁気券最後の牙城とも言えた回数券が廃止される-外的要因により半ば強制的に進められるICカード利用拡大による運賃の見直しはまだまだ進みそうである。区間別、時間帯別に運賃を変動させるダイナミックプライシングが当然の世界はすぐそばにあるように思う。
回数券廃止は、きっぷや旅客営業制度の在り方を根幹から変えていく入り口にすぎないのであろう。
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